#9「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
今回のポイントは「名前」です。
キャラの名前をとりあえずこんな感じでと適当につけちゃうときってありますよね。
でも、名前も一つの設定。物語のデティールを形作る一部分です。
何より、名前は伏線を入れても気づかれにくい設定の一つなんです。
そんな名前の設定のされ方をご紹介しつつ、シナリオ分析していきます。ネタバレ注意!
起承転結

- 起:虚ろ
- 承:塞ぎ込む
- 転:届けられた手紙
- 結:再生
ギルベルトの死を知ったヴァイオレット。そんなヴァイオレットを迎えに行くクラウディア。それでも自室で引きこもるヴァイオレット。そんな彼女を心配する面々。そんなヴァイオレットはギルベルトの夢を見て、どうすればいいのか分からなくなり泣く。そこへ手紙が届けられる。手紙を届けてくれたローランドは夜の配達をしていたため、ヴァイオレットは手伝う。そうして、自室に戻り、自分を心配しているアイリスとエリカの手紙を読み、手紙をもらう喜びを知る。そして、ヴァイオレットはクラウディアに「自分は自動手記人形でいていいのか」と問う
今回の話はどこで起承転結を分けるか非常に悩みました。
場面の切り替えで使われるのが音と映像。その音の使われ方とヴァイオレットの心情を鑑みて、このようにしました。
そんな#9ですが、ヴァイオレットの話になっています。
前半は少佐を失い、自らの罪の意識にさいなまれ、自暴自棄に陥るヴァイオレット。後半では、ローランドの配達の手伝いを皮切りに、立ち上がるヴァイオレットが描かれています。
起:虚ろ

- 起:信号弾の後
- 承:インテンス跡地
- 転:クラウディア
- 結:帰社
それでも一緒に逃げようとするヴァイオレット。そんなヴァイオレットに「心から愛してる」というギルベルト。
崩落するインテンス。ギルベルトはヴァイオレットをその崩落から守ろうとする。
そのインテンスの跡地で瓦礫をつかむヴァイオレット。
そんなヴァイオレットを見つけ、会社に戻ろうと説得するクラウディア。
そこへベネディクトの車が到着し、ヴァイオレットを連れ出す。
ヴァイオレットを励ますクラウディア。ヴァイオレットの瞳には過去の自分が映っていた。
このシーンは前話で少佐を探したヴァイオレットの終点とそれを連れ戻す話です。
信号弾の後にギルベルトが撃たれるフックの続きから物語が始まります。
「あい」が分からないヴァイオレットというのは、「あい」という言葉とそれをされたことがないという2重の意味で「愛」を知らないということですね。
それが今の「愛してる」を知りたいにつながってくるわけです。
クラウディアが登場シーンでは、クラウディアがアバンでの戦場描写で分かりにくい所を上手に捕捉説明しています。
加えて、ギルベルトとの約束が前話での会社で雇う以外のちゃんとした約束もしていたということも伝えられます。ここは#1でエヴァーガーデン家に連れていく話に繋がっています。
ベネディクトの言葉でヴァイオレットを無理やり引っ張って車に乗せたということが説明されています。
最後に検問があるところは何かの伏線でしょう。今後の話に絡んでくるものですね。
承:塞ぎ込む

- 起:心配する面々
- 承:自分で決めるしかない
- 転:このままでいいの?
- 結:代筆依頼
カトレアはベネディクトに見舞いを頼むも、捨てられた手紙を探しに行かないといけないと断られ、自分で見舞いに行く。
そんなヴァイオレットからクラウディアに「燃えている」と言われたと聞いて、クラウディアに詰め寄るカトレア。
クラウディアは「自分で決めるしかない」という。
エリカとアイリスも見舞いに行こうか悩んでいた。そっとしておこうというエリカ。「愛してるを知りたい」というヴァイオレットを思い出す二人。
「本当にこのままでいいのか」というアイリス。
そんな二人の元に、代筆依頼が来る。
このシーンでは打ちひしがれるヴァイオレットとその周囲を描くシーンになっています。
ここでカトレアとべネディクトとのシーンで「手紙が捨てられた」ということが話され、自然に伏線が張られています。
カトレアとクラウディアのシーンで「燃えている」ことで言いあうシーンでは、この話ではヴァイオレットが置かれている状況とそれを打開するカギですね。
#2と#4で積み重ねてきたエリカとアイリスとの信頼と「愛しているを知りたい」というヴァイオレットの気持ち。この#9で伏線を回収するように効いてきています。
エリカは「そっとしておいたほうがいい」アイリスは「このままでいいのか」という風にキャラの性格が出るリアクションが行われているところにも注目です。
スペンサーが代筆依頼に来るところはリアクションなく唐突にシーンの切り替えが行われているためフックであり、また、伏線的機能も持っています。
転:届けられた手紙

- 起:悪夢
- 承:命令
- 転:届けられた手紙
- 結:再配達
インテンス内部で少佐との夢を見るヴァイオレット。
少佐の口からはディートフリートの「人を結ぶ手紙を書くのか」と言われ、目が覚める。
ヴァイオレットは自暴自棄になり、暴れて自らの首を絞める。
が、死ぬことができず、どうしたらいいか分からなくなり、「命令をください」と泣く。
そんなヴァイオレットの元に手紙が届く。
手紙を届けたローランドの配達が終わっていないことを知り、手伝うヴァイオレット。
ここでは絶望の淵に立たされるヴァイオレットが描かれています。
自らの罪の意識とギルベルトの死で自らの首を絞めるも、最後までできないで泣くヴァイオレット。
「命令をください」というセリフからは今まで命令で動いてきたヴァイオレットのバックグラウンドがあるからこそのセリフです。
このセリフや行動でどうしたらいいかわからない混乱状態をうまく表しています。
ローランドの手紙配達を手伝うためにベネディクトが足を挫くところは少しご都合的ですが、全然気になりませんね。むしろ、ベネディクトがいつもハイヒールを履いているという描写をそれとなく表していますね。
結:再生

- 起:手伝う
- 承:手紙
- 転:代筆
- 結:消えない
自室に戻ったヴァイオレットは手紙を開き、エリカとアイリスの温かい言葉に涙するヴァイオレット。
ヴァイオレットはスペンサーから代筆依頼があったことを知る。
ヴァイオレットはスペンサーの元へ代筆に行き、代筆を終える。
ヴァイオレットは帰り道で花を見て、ギルベルトから「その名にふさわしい」という言葉を思い出す。
ヴァイオレットはクラウディアの元へ走り、「このまま自動手記人形でいていいのか。生きていていいのか」と問う。
クラウディアは「してきたことは消せない。でも、君が自動手記人形としてしてきたことも消えないんだよ」と答える。
届かなくていい手紙なんてないという言葉から察するに、ヴァイオレットはもしも配達をしなければ手紙に目を通さなかったかもしれないというのが想像できて面白いですね。
ちなみに配達を終えて、手紙を見るまでヴァイオレットの服や肌がボロボロというところは心理表現(シャレード)になっていますね。
スペンサーとの会話で「手紙をもらうことはうれしい」という言葉で映像だけでは分かりにくかったヴァイオレットの内心が分かりやすくなっているところもいい点です。
また、陰から日向に出て目を細めるところも心理表現(シャレード)になってます。
ヴァイオレットがこれまで関わってきた人たちが登場するのは、ただ出せば感動するからというわけではなく、クラウディアの「君が自動手記人形としてしてきたことが消せないんだ」という言葉にかかっているためです。すごくいい演出ですね。
名前

今回のポイントは名前です。
キャラの名前は非常に大事です。名字で呼ぶか名前で呼ぶかで恋愛の機微を描くこともあるくらい名前は重要なファイクターなのです。
そんなキャラの名前も一つの設定。物語のディティールを担う一つのパーツです。
故に、それなりのエピソードを仕込んでおくと、キャラが動き出しやすくなります。
シナリオに組み込んでお話を一つ作ることができたりします。
#4での「だからこういう名前」というオチは名前自体を伏線としているため、気づかれにくく自然なオチが作れます。#4でもそれが使われていますね。
今回の話でもそれが一部使われていますね。
ヴァイオレットが花を見てしゃがみこんで「その名にふさわしい人になる」というシーンです。
ギルベルトの命令ではなく願いによってヴァイオレットは前に進もうとします。これも名前が伏線的な機能を持っている一つの例ですね。
#4でのアイリスだったら、「生まれたときに咲いていた花だから」アイリス。で、親からアイリスの花を渡されて、仲直りします。
同じクールにやっている「ダーリン・イン・ザ・フランキス」なら「それぞれの個体に名前を付ける」という特別性と、主人公のヒロはヒーローだから「ヒロ」。名前は体を成すように主人公らしい活躍をしています。
このようにキャラの名前を付けるのは作者ではありますが、作中ではそのキャラの親ということになりますよね。
キャラの親は何かしら願いや希望を込めてそういった名前を付けたはずです。
「親との軋轢」などをテーマとして話に盛り込む際に、名前を使うと有効です。
また、これはあだ名でも応用できる技術で、「友達との絆」をテーマにする際にも伏線として使えます。
このようにキャラに名前を付ける際には、その親や友達になりきって意味を持たせてみてはいかがでしょうか。
終わりに

今回のポイントは「名前」でした。
キャラに名前に何らかの意味を持たせることで、キャラに輪郭が生まれ、キャラが動き出しやすくなります。
また、「だからこういう名前」というオチはかなり綺麗にオチを付けられます。伏線としても気づかれにくいため意外性が作りやすいです。
あだ名などでも応用できる技なので、いろいろ試してみてください。
今回の話でヴァイオレットの話は「愛してるを知りたい」を残すくらいになりました。
ギルベルトの死や燃えている自分さえも乗り越え成長している姿はいいですね。
そんな彼女がこれからどんな活躍をするのかに期待です。
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